ホウ酸か合成殺虫剤か?荒川民雄のホウ酸談義:Vol.3
理学博士でもあり、日本のホウ酸処理界の父でもある荒川民雄によるコラム「荒川民雄のホウ酸談義」。
第三話目は「ホウ酸か合成殺虫剤か?」。不定期の連載でお届けしていきます。
ホウ酸は農薬よりはるかに安全
ホウ酸と(合成)殺虫剤とどちらが安全ですか?
表1は、日・米・英の滅失住宅築後年数を比較したものです。
「ホウ酸と(合成)殺虫剤とどちらが安全ですか?」
よく質問されます。
表1に両者を比較しました。
結論から申しますと、ホウ酸は農薬よりはるかに安全です。
世界保健機構(WHO)によると、世界の自殺者の約3割は農薬自殺で、年間24万人と推定されます。有機リン系の殺虫剤を使用するケースが多いようです。
これに対し、ホウ酸を飲んで自殺するのは不可能に近い。成人は、2グラムのホウ酸を飲むと嘔吐します。半数致死量とされる200グラムを飲むのは不可能です。
ただし、幼児は何をするかわからない。ホウ酸団子の扱いには十分注意してください。
殺虫剤の怖さは、危険性がよく分からないこと。
殺虫剤の怖さは、危険性がよく分からないことです。殺虫剤は農作物を害虫から守るために開発されます。
普通、数年使用すると耐性を持つ害虫が出現します。新しい殺虫剤に切替えることになります。耐性害虫と新規殺虫剤の宿命的ないたちごっこが続きます。
新規殺虫剤の危険性が理解され、対策が講じられるころには、次の殺虫剤に代替わりしていることが多いのです。
母親が妊娠時に有機リン系の殺虫剤に汚染すると、生まれた子供の知能指数は下がる
2011年4月に、米国のカリフォルニア大学、コロンビア大学、マウントシナイ大学の3研究グループが独立に驚くべき研究報告を発表しました。
10年にわたる研究の結果、母親が妊娠時に有機リン系の殺虫剤に汚染すると、生まれた子供の就学時の知能指数(IQ)は最高7ポイント下がるというものです。
日本では、IQ測定はしませんが、米国では小学校低学年で必ず実施するようです。
ちなみに、IQの7ポイントは、偏差値で約5ポイントに相当します。偏差値が5下がる意味は、受験生を持つお母さんにはよくお分かりと思います。かなり深刻です。
ネオニコチノイド
「有機リン系殺虫剤がIQを低下させることは分かった。現在シロアリ予防に使われているのはネオニコチノイドだから安全だ。」という人がいます。
しかし、昆虫の神経伝達を阻害し、あるいは攪乱する殺虫剤(神経毒)は、おしなべて神経保護が不完全な胎芽にとって脅威なのです。
ヒトは、単細胞の受精卵からスタートし、300日後には3兆の細胞を持つ新生児になります。特に最初の8週間で単細胞から人類までの数十億年の進化の歴史を駆け抜けるといわれます。
神経が保護されていない時期に、母体から供給される血液中に微量の殺虫剤が混入すれば、胎芽の成長に不協和音が入ることになります。
殺虫剤暴露について警告
米国妊娠学会は、妊娠時の殺虫剤暴露について次のように警告しています。
(1)殺虫剤暴露が最も危険なのは、胎芽の神経管が形成される妊娠初期3〜8週間です。農薬を使用している農園近くに住んでいる人は、殺虫剤暴露のない場所に転居することを奨めます。
(2)妊娠中は、屋内、ガーデニング、ペットの手入れなどの殺虫剤使用は止めてください。 大多数の新築住宅で、シロアリ予防のため畑で使われるよりずっと濃厚な殺虫剤が柱や土台に吹付けられています。
これがどんなに無意味で危険な行為か、これまでの議論からお分かりと思います。
シロアリの被害に苦しむ先進国の米国やオーストラリアでは、殺虫剤を住宅の木部やコンクリートに吹付けることは禁止されています。
しかし、日本では合法的なのです。ただし、最後の決定権は家を購入する消費者にあります。賢い消費者になりましょう。
新築住宅木部の防腐・防蟻処理は、ホウ酸のように効果が長持ちし、安全な無機防腐・防蟻剤を使用しましょう。
荒川民雄プロフィール
1959年東京大学工学部応用化学科卒業。1959〜94年、合成繊維会社で高分子材料の技術開発に従事。在職中の1961年、フルブライト留学生として渡米。1964年 Cornell大学化学科博士課程終了。1994〜1998年、マイウッド株式会社研究所長としてスギの用途開発に従事。1999年からコンサルタントとしてホウ素系木材保存剤の公的認証推進と普及に携わる。日本のホウ酸処理の第一人者。理学博士。
現在、NPO法人ホウ素系木材保存剤普及協会理事長、有限会社ボロンテクノロジー社長、一般社団法人日本ホウ酸処理協会(JBTA)代表理事、日本ボレイト株式会社会長。
著作に「『シロアリはホウ酸でやっつけなさい!』―木の住まいを人に優しくコストのかからない長期優良住宅(住まいの学校ライブラリー)」がある。